第四十九回 地域新電力の種類⑤ 岩手中央エネルギー

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 シリーズ「地域新電力の種類」を、いったん今回で締めるつもりです。
 いわば記念の最終回ですが、少し不思議なお話になります。この地域新電力、実は、まだ電気を1kWhも売った実績が無いのです。え、それはどういうこと、と思いますよね。

 さて、岩手中央エネルギー株式会社は、岩手県の中央地域にある、紫波町の民間会社が資本を出し合ってできたいわゆる地域新電力です。登録番号はA0412です。2月26日現在の登録の数が576事業者なので、およそ1年9か月前の登録になります。ずいぶん前のことですね。ところが、前に書いたように、そんなに経つのに全く電気を売ったことがありません。
 576という数字は「現在の登録事業者」の数を表しています。その中で3分の1程度が実際には売電をしていません。また、すでに事業をしないまま、登録を取り消した業者や事業していたが撤退した事業者もかなりいます。
 2016年の春の電力の小売り完全自由化の時は、割と華々しいスタートが切られました。いずれの業界でも同様に、初めは儲かるかもと勢いよく手を挙げるものが目立ちますが、厳しい競争の中でだんだん落ち着きを見せるようになるのです。

 では、岩手中央エネルギーは、何もしていない休眠会社かというとそうではありません。
 再び、え、それはどういうことと思ったでしょう。
 筆者さえも、最初にその中身を聞いたときに、え、と驚きました。
 種を明かせば、どうということもないので、答えを引っ張っただけ怒られるかもしれませんが、岩手中央エネルギーは、現在、売電以外の事業で会社としての生計を立てています。会社なので、事業をしないと収入もなく、会社として成り立たないのはどこでも当たり前です。
 もちろん、最初からこういう計画だったわけではありません。
 地元の建設会社、スーパーなど多種の民間会社が等分の資本を出して立ち上げた頃は、地元の自治体や民間事業所、農協などとの連携で、一定の電力供給の数字をカウントしました。結果として割と安定的な事業性を描いていたのです。実際に、需給シミュレーションを作って、いくつか施設での切り替え寸前まで行きました。

 ところが、そこで予定外のことが起きました。
 詳しくは書きませんが(書けないと言ってもよいかも)、ある程度約束を進めていたある自治体への電力供給計画が大きく狂うことが分かったのです。当時、しっかりかかわっていた筆者も唖然としたのを覚えています。原因は何か、誰が悪いかということをいくら追及していっても、計画がすぐには元に戻らないことは明らかでした。
 その結果、苦渋の決断として、電力の小売り事業をいったん休眠状態とすることを決めました。自治体への供給の目途が見えてきたらまた動き出そうということでした。
 
 それからおよそ1年、どっこい、岩手中央エネルギーは生きていました。
 当時、この地域新電力への参加メンバーは、心から悔しい思いをしたはずです。実際に複数のぎりぎりとした胃が痛むような声を聞いたものです。筆者がしばらく離れている間にその悔しい思いは、新しいチャレンジに変わっていました。
 電力の小売りはしばらく休むにしても、せっかく作った地元100%の会社に命を吹き込んでおこうということでした。もともと、資本参加した中には太陽光発電施設の施工をやったり、パネルを販売したりする会社がありました。再生エネの事業はお手の物です。そこで、再生エネに関わるビジネスを岩手中央エネルギーで始めました。実際に、発電施設のエンジニアリングや施工の手配、メンテナンスなどを行い、会社として黒字化してしまいました。定款には、小売電気事業以外のいくつもの事業項目があるのです。

 筆者の個人的な感想を恐れず言えば、このしたたかさ、簡単に倒れない地元の力が素敵だと思っています。
 この先、小売り以外の事業を拡大することは当然として、すでに小売り電気事業の再開、というかほぼスタートに向けて準備を進めています。供給手続き、自治体へのアプローチをすでに始めており、夏頃には実際の供給が開始されるかもしれません。
 小売電気事業をする会社は、電気しか売ってはいけないわけではありません。
 事業の安定性を考えたときには、電気以外の事業でベースの売り上げや利益を出しておけば、電気の小売りでの競争力を十分下支えすることができるのです。これは目からうろこのメリットです。
 普通は、電気の小売りで事業の基礎を固めて、他の事業展開を図るのですが、ある意味逆転の発想です。こんな面白いケースが、地方には転がっているのです。心から応援したくなります。

以上

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