第七十四回 驚くほど安い値段の電気

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 今回は、ちょっと趣向を変えて、ピンポイントのお話をしてみます。
 前回、今後大きく変化するエネルギーの制度を頭に描きながら、個別のキイワードを取り上げました。説明したのは、「地域活用電源」という地域で非常用などに利用できる再生エネ電源についてでしたね。
 今回は、特別な電気の値段にフォーカスします。家庭や工場、オフィスなどで使う電気の値段は、電気料金ですが、今回のテーマとなる電気の値段は、卸売市場に現れる価格のことです。タイトルのように、これが驚くほど安いことがあるというお話です。

 日本の電気はJEPX(一般社団法人 日本卸電力取引所)で取引が行われます。買いと売りがあって需要と供給のバランスによって値段が大きく違ってきます。おわかりの通り、需要が供給を上回ると値段が上がり、供給が需要より大きくなると値段が下がっていきます。JEPXは卸売市場で、年間の平均の値段(1kWhあたり)が10円前後です。昨年までは10円から13円くらいまででしたが、今年は暖冬で10円を下回りそうです。
 基本的に30分単位に値段がつけられていきますが、猛暑で冷房をがんがん使う時やすごく寒い時の暖房利用アップで数十円という数倍の値段が付くことも珍しくありません。

 さて、表題の「驚くように安い電気」は、再生エネの発電が普及してきたことで生まれています。例えば、九州地方では太陽光発電の施設が広まって、晴れの日の昼間に急激に発電量が増えて電気の供給が上昇し、需要を上回ることが実際に起きます。出力制御といって、発電をコントロールをするケースが増えていますが、それでも電気の引き取り手を探すのに苦労することも少なくありません。
 昨年からそんな事象が卸売市場に頻繁(ひんぱん)に現れて、その結果、1kWhが0.01円ということも珍しくなくなりました。昼前後から夕方にかけて0.01円が数時間に及ぶこともあります。こんなに安い電気が出てくるなら、うまく使って電気代を大きく削減したいと思うのは当たり前のことです。需要の時間帯をずらしたり、蓄電して必要な時に使おうとしたりする動きもすでに出てきています。需要の移動によるコスト増や新たに必要となる蓄電池のコストなどをカウントしたうえで、極端に安い電気を積極的に利用する可能性がでてきています。
 太陽光発電設備が最も広がっている九州地方だからこのようなことがあるのだと思っていたら、3月の初旬についに東北地方でも現実になったようです。昼間の1時間だけで、価格は0.1円(1kWh)だったようです。
 いずれにせよ、日本全国でこのような現象が発生するまで再生エネ発電が広がってきたということでしょう。

 さて、ここで再生エネの先進国ドイツの情報を加えておきます。
 再生エネの発電量が全体の40%を優に超えたことはすでに前に書いた通りです。そこで、ベルリンの再生エネの研究機関、Agora Energiewendeのまとめたあるデータをご紹介したいと思います。
 ドイツでは、極端に安い電気ではなく、ネガティブプライス(negative electricity prices)といって、逆の値段、つまりお金を払って電気を買うのではなく電気を引き取るとお金がもらえるという夢のような出来事が数年前から起きています。電気が需要を大きく上回って放っておくと停電などの不具合が起きる場合は、お金を払っても引き取ってもらうということが起こりうるのです。

 具体的な数字を見てみましょう。
 2019年にネガティブプライスが発生した時間のトータルは、211時間と過去最大となりました。前の年2018年を80時間ほど上回り、これまで最も多かった2017年の146時間の50%増でした。1年間は8760時間なので、およそ2.4%とまだまだ小さい数字ですね。しかし、発生時に一気に電気を貯めるなどの工夫によっては、効率的な使い方もありそうです。また、経年データを見ると数字は右肩上がりなので、再生エネの割合が増えるにしたがってさらに時間は長くなるでしょう。このデータをまとめた、研究機関Agora Energiewendeも、「再生エネ発電の割合が増えたことでネガティブプライスの時間が増え、柔軟性(ビジネス)の可能性を示している」とコメントしています。ネガティブプライスの拡大を念頭にCO2フリーの水素を作り出そうというプロジェクトも、実際に進行しています。
 もうひとつ気になるのは、プライス=値段のことです。
 210時間の平均価格(1kWhあたりもらえるお金)は、1.73ユーロセントでおよそ2円です。この値段はこの数年あまり変わりません。また、最高額は9ユーロセントでおよそ10円でした。

 電気の価格が極端に安かったり逆転する価格が生まれたりと、再生エネの拡大が新しい現象を生んでいます。これもいずれ珍しさから当たり前に変わっていくでしょう。そんな変化を頭に入れながら新しいビジネスを準備するタイミングは、もうそこまで来ています。

以上

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